ドイツとEU経済

第10章 ドイツとEU経済 ― 統合のパートナーから主導国へ
1.ドイツ経済の特徴
■現代ドイツの概要
・ 国土35万平方キロ(ヨーロッパ4位)。1999年、人口は8209万人(EU15の21.8%)。GDPは約2兆ユーロ(EU15の25%、ユーロ域11カ国の32%)
・ 保革の政権交代が行われ、西欧随一の国際競争力を保ちながら、しかも社会保障が行き届き、企業は従業員を重視する(ライン型資本主義)、バランスの良い制度・政策を実現してきた。

■社会的市場経済と物価安定―経済政策の理念と実践
「社会的市場経済」…自由な市場経済を基本原則としながら、他方で国家政策によって市場を補完し、最適な社会状態をめざす。
【イデオロギーとして役割】①中央統制経済に反対して市場経済の効率性を強調することで、ナチス経済と東ドイツの共産主義の双方を同時に批判できる。②市場の万能性を強調する傾向をもつ英米流の「自由放任主義」を批判することとなり、西ドイツの独自性を主張できる。

<輸出依存の経済成長>…財の輸出がGDPに占めるシェアは1990年代末で約26%。
<物価安定の原則>…社会的市場経済の思想は、物価安定を重視。

■銀行主導のコーポレート・ガバナンス(企業統治)
・ 企業統治において、銀行の果たす役割はきわめて大きい。銀行は企業経営に深く関わり、金融情報を提供し、経営にアドバイスを行う。
・ 中小企業の役割が大きい。
・ 「ドイツ・日本型」(ライン型資本主義)…メイン・バンク制,間接金融型で,経営者・株主だけでなく従業員の利害をも重視し,終身雇用,小さい賃金格差,従業員との協議による経営,愛社精神などを特徴としている。格差の小ささが共同体意識を生み,社会は安定している。
・ 「米英型」(アングロサクソン型資本主義)…金融市場依存型(直接金融型)。株主(share holder)の価値を最上位に置き,株主が気に入らない経営者は罷免されるので,経営者は常に株価を最重要視せざるをえない。業績が悪化すると,最後に雇用されたものから順にレイオフされ社員は職を失う。

→評価は時代とともに動いており、普遍的にどちらの型が優れているとは言えない。現在は第4次技術革命の時期であり、ライン型諸国でアングロ・サクソン型を取り入れる動きが顕著。
2.1990年代のドイツ経済
■5カ国の比較
・1990年代後半、ほとんどのEU構成国で雇用が増加したが、ドイツだけは減少。
・西ドイツでは労働生産性上昇率が高い製造業就業者の総雇用に占めるウェイトが35%と高い。

■1990年代ドイツの高失業とドイツ経済
<東ドイツの失業と経済の再建>
・ 統一後、旧東ドイツの失業率が急激に増加。→西ドイツとの通貨統一の影響
・ サービス業は発展したが、製造業の発展は抑制された。
・ 生産と消費のギャップを西ドイツからの資金移転によって埋める。
<ドイツの経済成長と失業>
・ 西ドイツにおいても失業は厳しい。
・ 労働市場の硬直性よりも、80年代末~90年代初めの過度好況によるもの。
→1990年代の高失業はドイツ統一と不可分。慢性的な「ドイツ病」というより、西ドイツの過度投資圧力と東の経済崩壊とのダブル効果から生じた。

■経済グローバル化とユーロによる新しい動き
・ ドイツの7つの大企業がニューヨーク株式取引所に上場。株主主導型のコーポレート・ガバナンスを取り入れ、経済グローバル化における競争に備える。
・ グローバル競争とEU域内競争の激化によって、銀行も従来の安定した収入が脅かされるようになった。ユニバーサル・バンク業務から投資銀行業務への転換。競争激化によって吸収合併が進み、銀行数も急速に減少。
・ ベンチャー株式を取引する「ノイア・マルクト」の創設。
・ 直接金融やベンチャーなどアメリカを手本とするコーポレート・ガバナンスへと転換。
・ICT化の立ち遅れに対する対応策をとっている。ICT部門の外国人技術者を最高2万人受け入れる「グリーンカード制」の開始。

3.ドイツとEU統合
■ボン=パリ枢軸
■ドイツと21世紀のEU統合
・ 先行統合…すべての統合分野で「中核諸国」が他のEU諸国に先行し、統合の行き先とモデルを示すことで統合の勢いを維持する。
・ ドイツのフィッシャー外相はEUの連邦案を打ち出す。

■ドイツの中・東欧への進出と東方拡大
・ 中・東欧諸国の経済活性化がドイツに最も有利に作用する。
・ 単一市場が拡大することで、ドイツ以外のEU諸国の企業にとって進出しやすい環境になり、ドイツに対する経済依存度はむしろ低下する可能性もある。
■ むすび