トニー・フィッツパトリック『自由と保障 ― ベーシック・インカム論争』
∟ 第2章 社会保障の給付と負担
2.1 はじめに
・ 社会保障の給付制度は2つの見出し(①技術的②社会的/道徳的)のもとで議論しなければいけない。
・ 本章では制度の技術論について紹介。
2.2 6種類の所得移転
① 社会保険給付
② 社会扶助給付
→資力付き扶助の賛成論と問題点
③ カテゴリー別給付
④ 自由裁量給付
⑤ 職域給付
⑥ 財政移転
2.3 社会保障の目的
―戦後における3つの発展段階
・ベヴァリッジ的なシステムの成立以前
資力調査付の扶助が極貧者へ所得移転するための手段として用いられた。
・ベヴァリッジ・システム
ベヴァリッジは、①稼得能力の喪失、②稼得能力の不足に陥った時に所得を保障することによって、貧困を防止できると説いた。社会保障が完全雇用経済に寄与することが期待された。
・1965年~
資力調査付き扶助に頼らない状況はなくならないという認識が強まり、資力調査への依存が拡大。
・社会保障の3つの目標
① 労働と貯蓄のインセンティブを著しく損なわないという意味での効率性
② 最も必要とする人へ適正な最低所得を給付するという意味での衡平
③ 運営のしやすさ
・さらに、3つの戦略的な目的 ― ①所得補助 ②不平等の縮小 ③社会統合
2.4 福祉の社会的分業
・ 国家福祉と財政福祉
国家福祉は支出として定義され、増加に対して国民は敏感だが、財政福祉は関心を引く傾向がないため、抑制されにくい。
・ 職域福祉
・ 福祉の性分業
⇒ 金銭移転についての議論は、間接的な形をとる福祉に敏感でなければならない。
2.5 失業と貧困の罠
・失業の罠
稼得と給付の差が小さいために、有給の職に就いても合計所得がそれほど増えない状況。
・貧困の罠
税と移転の効果が合わさったため、稼得が増えても所得全体がそれほど増えない状況。
2.6 租税と移転の再分配効果
■再分配のスナップ写真
・ 直接税としての所得税は、低所得者よりも高所得からより多く比重がかけられるが、間接税などのすべての税を考慮すると、課税の効果は相殺される。
・ 極貧者が受け取ったものは、最も裕福な者から移転されたものとは限らない。
■ライフサイクル的再分配
・ 人生のうちで稼得能力が最も高い時期から低い時期へと所得が再分配される。
・ 生涯にわたって裕福な者と貧しい者との間の全体的な再分配を見ていく必要がある。
→給付の分配をグロスでみると、きわめて均一。ライフサイクル的分配75%、垂直的分配25%。
2.7 ヨーロッパと世界の最近の動向
―1985年~1995年のヨーロッパの改革の傾向
① 就業期間が一般的に長くなった。
② 資力調査の使用を増やす傾向。
③ 民営化へ移行する傾向。
④ 給付を、求職や訓練のような事項に密接に関係させた、積極的な雇用手段へと移行させる傾向。
・ 概して、ヨーロッパ諸国は社会保険料の事業者負担を減らし、保険料よりも税金の方を財源として重んじ、国と地方のあいだの財源調達の責任区分を変えるように努めた。
・ OECD諸国では、扶助がますます重視される傾向。
2.8 結論
・ 貧困と失業の罠に対処するだけでなく、社会保障と税制を統合することによって、福祉の社会的分裂に挑もうとする。
・ 再分配効果がどれくらいあるのかを測定することは困難。再分配効果をはっきりさせることよりも、BIのイデオロギー的な背景を明らかにしなければならない…というのが議論の前提。