トニー・フィッツパトリック『自由と保障 ― ベーシック・インカム論争』
∟ 第4章 弁護人対検察官
4.1 はじめに
4.2 働き者(クレージー)にならない自由
・BIは個人の自由の範囲を広げる。
「真の自由」=人々がやりたいことをする権利だけでなく、手段を持っていなければならない。
・ 真の自由を尊重する社会では、個人が「働き者」と「怠け者」のどちらになるのかを洗濯する自由を尊重されるが、現在の社会では、収入を伴った仕事にこだわっているために、働き者の生活スタイルに偏っている。
・「なぜ働き者は自分の稼ぎから、怠け者のBIの費用を出さなければならないか?」(自由主義者)
→現在の労働だけが現在の社会的財産を生み出したわけではない。BIの方が他の制度よりも中立的ということもある。
・「社会において完全なメンバーシップを獲得するためには、働く義務を果たさなければならず、怠け者の生活スタイルを尊重する必要はない」(コミュニタリアン)
→コミュニティには多数派の専横を回避するために中立性の原理が要請される。善い生活に関するある観念を持つ者が、別の観念を持つ者を迫害することは好ましくない。
4.3 公正と効率の回復
・社会的公正
① プライバシーの尊重
② 不正受給している人々の合法化
③ 最低限の所得を獲得する権利をもつという市民権の考え方を内実化
・効率性
① 行政コストの削減
② 労働市場の柔軟化、雇用率の上昇
③ 「悪性の回転」がなくなる。
4.4 罠、誘因、捕捉
・ 失業の罠、貧困の罠を克服することができる。
・ 資力調査付き給付と違って、有資格者のすべてが実際の給付を得られる。
・ 勤労の有無に関係なく所得が保証されると、労働市場から退出する者が出てくる?
・ BIのインセンティブ効果とディスインセンティブ効果
4.5 フリーライダーするサーファー
・ BIを導入した場合、誰かが生産のために払った努力に、別の者がただ乗りするのを助長し、経済的意味での社会の持続可能性の脅威となる可能性がある。
■「サーファー」への反対論…に対する4つの再反論
①自然からの授かりもの説
既存の社会財の大部分は、現在の労働の産物というよりは、自然と過去の経済からの授かりもの。
②雇用レント説
賃金稼得者は雇用レントを有している。
③プラグマティックな議論
フリーライダーは不可避の代償。
④プライスタグ説
BIは、個性や社会の多様性について実験を促しているのだから、ある程度のフリーライダーの存在は、受け入れなければならない必要悪。→フリーライダーは自由な社会の証し、と筆者は考える。
4.6 費用効果的でないという反対論
・ 部分BIでは不十分であり、水準を引き上げようとすると、税率が高くなる。
・ BIは個別的な必要や事情は無視されるため、非効率である。
・ 社会的分裂を深める可能性。
→選別主義的な分配システムの欠点
・ 資力調査付き給付…的確に、対象を定め、狙い打ち、仕留める必要がある。
・ 保険給付…拠出を行えない者を排除してしまう。
・ BIの利点は広範囲にわたるにもかかわらず、コストは明瞭。反対に、他のシステムは利点がはっきりしているがコストは隠蔽される。
・ どのシステムが最善かについては、技術的にではなく、政治的・イデオロギー的に決定される。
4.7 政治的支持に関する反対論
① BIを支持する政治連合がない。
② 選挙でBIの支持を得るのが困難。
③ 部分BIを導入するのに10年ほどかかる。
・ 実際に検討する段階となると、イデオロギー的な不一致が表面化する。BIは包括的な政策パッケージの一部として位置づけられるべき。BIを目的とした政治連合は間違いで、現実に存在する政治連合の中にBIを浸透させ、政治連合を再編する必要がある。
4.8 結論