ベーシック・インカム

トニー・フィッツパトリック『自由と保障 ― ベーシック・インカム論争』

第1章 基本に進め

■ベーシック・インカム(BI)
‐すべての男性・女性・子供に対し、市民権に基づく個人の権利として、職業上の地位、職歴、求職の意思、婚姻上の地位とは無関係に、無条件で支払われる所得のこと。

○賛成論
・ 現在の社会保障システムよりも効率よく最低所得を保障できる。
・ ベーシック・インカムはすべての者の地位が平等。貧困や失業をかなり軽減できる。
・ 個人の自律性の向上。
・ 少ない費用での運営が可能。
×反対論
・ 無条件で給付されるため、受給者に対し何も要求できない。←義務の側面を無視
・ 運営には多額の費用がかかる。給付水準が低いと低所得層にとっては苦しい。

・ ベーシック・インカムはあらゆるイデオロギー的立場から支持と批判の両方が寄せられる。
・ ベーシック・インカムが、どのような特性、意義、効果を持つかは、BIの実現されるイデオロギー的社会環境がどのような性質をもっているかによって異なる。
・ 右派と左派のBIは基本的には別物。論争のイデオロギー的な側面を議論の中心におくことに、本書の独自性がある。

■本書の目的
1. 「最小限モデル」の理解。イデオロギー的な次元とは無関係にBIを理解する。
2. イデオロギー的な見取り図の製作。
3. 政治理論と社会政策といった学問分野とBIの関係を示す。

2. イデオロギー

―イデオロギーは時代遅れ?
1. 「イズム」の時代の終焉。
2. イデオロギーは、とりわけ社会的世界を歪んだ形表象する大きな物語であり、無用の長物である。

・ イデオロギーは「外側の」世界を映し出すだけでなく、その世界に対する働きかけや介入を動機づける。人間の集合的行為を通して、数世紀にわたってイデオロギー上の相違から形成された世界と向き合わなければならない。
・ 「私たちは今、一体何をしているのか?」という問いに対して、ポスト・モダニストとポスト構造主義者は(何をすればいいのか、ということに関する)処方箋がない。混乱した不安定な世界のなかで進むべき方向を見つけようとするとき、イデオロギーは貴重な判断基準を提供する。

3. 比較のなかのベーシック・インカム
・BIを比較アプローチによって扱うだけでは不十分。
① BI論争における、フェミニズムや環境保護運動の貢献を無視するおそれ。
② 現在、BI制度は存在しない。
③ BI論争が福祉レジームのレベルで行われることがなく、また、普通は、政府レベルでの論争さえない。

■BI論争が政府レベルの広がりを見せる国

① アイルランド
② オランダ
③ ブラジル
④ カナダ

4. 市民権についての一言

・BIに関するイデオロギー論争は、実際は市民権に関する論争。
・市民権という概念…「受動的な要素」と「能動的な要素」。
・市民権→法的な居住資格

5. 結論と本書の構成

筆者のスタンス:ベーシック・インカムを支持。
・ ただし、急進右派の「負の所得税」(NIT)は支持しない。ほぼ全員に対してミーンズテストを行うため。