国際関係論

IAEA(国際原子力機関)
INF
IMF(国際通貨基金)
IMF体制
TO(国際貿易機関)
旧A(国際開発協会)
lBRD(国際復興開発銀行)
旧RD体制
アグレマン
アジア・アフリカ会誠
アジェンダ
ASEAN地域フォーラム(ARF)
アパルトヘイト(人種隔離政策)
アフガニスタン侵攻
アブハジア
アフリカ統一機構
アフリカの角紛争
アフリカの年
アミンS.
アムステルダム条約(新欧州連合秦 的)
アリソン・モデル
アルバニア案
安全保障問題
安全保障理事会
アンタイド率
ERM(欧州為替相場メカニズム)
 EEC(欧州経済共同体)
EMl(欧州通貨横柄)
EMU(経済通貨同盟)
EC
ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)
ECB(欧州中央銀行)
ECU(欧州通貨単位)
EURATOM(欧州原子力共同体)
EUサミット
委員会(通称:欧州委員会)
イスラム原理主義
イデオロギー
イラクのクウェート侵攻
イラン・イラク戦争
イラン革命
インターナショナリズム
インドシナ戦争
印パ紛争

ウィーン体制
ウイルソン
ウェストフアリア条約
ヴェトナム戦争
ヴェルサイユ条約
ヴェルサイユ体制
ウオーラステイン
ウルグアイ・ラウンド

永久平和のために
栄光ある孤立
永世中立国
APEC(アジア太平洋経済協力会 議)
ASEM(アジア欧州連合首脳会富削
 AU(アフリカ連合)
SDl(戦略防衛構想)
エスニシティ
NIEO(新国際経済秩序)
NGO(Non-Governmenta Organization)
FAO(国連食粗農業機関)
EFTA(欧州自由貿易連合)
OAPEC(アラブ石油輸出国横柄)
 欧州安定化条約
欧州共通市民権
欧州共通の家構想
欧州共同体(EC)
欧州経済地域(EEA)
欧州通貨制度(EMS)
欧州通常戦力(CFE)条約
欧州連合(EU)
EEC(欧州経済協力機構)
ECD(経済協力開発機構)
 AS(米州機構)
AU(アフリカ統一機構)
SCE(欧州安全保障協力機構)
 沖縄返還
オゾン層の破壊
オゾン層保護のためのウィーン条 約
オゾンホール
オタワ・プロセス
PEC(石油輸出国機構)
温室効果ガス

カーE.Hノ
カーター
会計検査院
外交(dipmaCy)
外交特権
開発独裁
開発途上国
カイロ宣言
化学兵器禁止条約
核拡散防止条約(NPT)
核軍縮
かけがえのない地球
カストロ
片面講和
GATT(貿易と関税に関する一般協 定)
ガルトウング
カルドーゾF.Hノ間接的暴力
カントlノカンボジア内戦
官僚政治モデル
危機の二十年
気候変動枠組み条約(地球温暖化防 止条約)
北アイルランド紛争
北大西洋条約機構(NATO)
 キプロス紛争
キューバ危横
旧ユーゴスラヴィア内戦
共産主義
共通外交・安全保障政策
共通農業政策(CAP)
京都会議議定昏
拒否権
ギルピン
キングストン
キンドルバーガー
クーデター
グラスノスチ
グラント・エレメント
クルド人問題
グローバル・ガバナンス論
グロティウス
軍事監視団
軍備管理
経済社会理事会
ゲーム理論
ケナンGノ
ケネディ
ケベック州独立間題
現実主義
建設的棄権制

公海自由の原則
構造主義
構造的暴力
後発発展途上国(LLDC)
合理的行為者モデル
交流主義
国益(Nationallnterest)
国際海洋法裁判所
国際慣習法
国際機構
国際刑事裁判所(lCC)
国際公務員
国際司法裁判所(lCJ)
国際人権規約
国際体制論(国際レジーム論)
国際統合理論
国際法
国際連合
国際連盟
国際連盟規約
国際労働機関(lLO)
国民
国連開発の年
国連海洋法条約
国連環境開発会議(UNCED・地球サ ミット)
国連環境計画(UNEP)
国連キプロス平和維持軍
国連緊急展開軍(UNEF)
国連軍
国連工業開発棟関(UN旧)
国連事務局
国連人権高等弁務官事務所
国連大学(UNU)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) 
国連難民条約
国連人間環境会議(UNCHE)
国連の平和維持活動(PKO)
国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)
 国連貿易開発会議(UNCTAD)
 固定為替相場制
コへイン
個別的安全保障
コメコン(経済相互援助会議)
ゴラン高原
ゴルバチョフ
コンゴ動乱
コンドラチェフの波

裁判所(欧州司法裁判所)
最貧国
砂漠化
砂漠化防止条約
サミット
サラエヴオ事件
SALT
三国協商
三国同盟
年戦争
酸性雨
サンフランシスコ講和条約
GHQ
G
GATTウルグアイ・ラウンド
CSCE(欧州安全保障協力会鴻)
自衛権
自衛隊
シオニズム
資源ナショナリズム
市場統合
持続可能な開発
実質事項
児童の権利条約
司法・内務(啓察)協力
事務総長
社会主義
自由主義
重商主義
囚人のジレンマ
従属論
集団的安全保障
柔軟反応(対応)戦時
自由貿易
自由貿易体制
シューマン・プラン
ヵ条の平和原則
主権
主権国家(アクター)
ジュネーブ
ジュネーブ会談
蒋介石
常設国際司法裁判所
常設連盟事務局
常任理事国
条約
植民地
女子差別撤廃条約
新機能主義
新現実主義
新国際経済秩序
新思考外交
人種差別撤廃国際条約
新植民地主義
新制度主義
信託統治理事会
新デタント
新日米安保条約
信頼醸成措置(CBM)
森林原則宣言
新冷戦

垂直的分業
水平的分業
スエズ運河
スカルノ
START
スターリン批判
スナイダー
スナイダー・モデル
スピル・オーバー(sp=一OVer)仮 説
スプラトリー諸島(南沙諸島)
スミソニアン体制
スリランカ民族紛争
スンケル.
西欧同盟(WEU)
成長の限界
制度主義
政府開発援助(ODA)
生物多様性保護条約
政府内政治モデル
勢力均衡論
セーフ・ガード
世界遺産条約(世界の文化造産およ び自然遺産の保護に関する条 約)
世界恐慌(大恐慌)
世界銀行
世界システム論
世界人権宣言
世界貿易機関(肌汀)
石油危機
ゼロ・サム・ゲーム
全会一致制
戦間期
戦争と平和の法
専門機関
総会
相互依存論
組織過程モデル
第一次世界大戦
対共産圏輸出統制委員会(ココム)
 対抗的安全保障・集団的防衛機構
 対人地雷全面禁止条約
大西洋憲章
 m
第二次世界大戦
太平洋戦争
第四次中東戦争
代理戦争
大量報復戦略(ニュー・ルック戦 略)
多極化
竹島と尖閣列島
多国籍企業
多国籍軍
タジキスタン共和国
多中心主義
脱国家主体
WIPO(世界知的所有権横間)
WHO(世界保健機関)
単一欧州議定啓
ダンパートン・オークス会鴻
チェチェン・イングーシ共和国
 地球サミット
地球の温暖化
チキン・ゲーム
チトー
チベット独立問題
チャーチル
中国代表権問題
中心一周辺理論
中ソ対立
中東戦争
長期循環論
朝鮮戦争
朝鮮特需
直接的暴力
帝国主義論
DAC(開発援助委員会)
デタント
手続き事項
鉄のカーテン
デモクラティツク・ピース論
ドイッテュ
東欧革命
統合論
東南アジア諸国連合(ASEAN)
 東南アジア非核地帯条約
特別引出権(SDR)
トラテロルコ条約
トランス・ナショナルな関係
トルーマン宣言(トルーマン・ドク トリン)
ドロール
ナイ
ナゴルノ・カラバフ紛争
ナショナリズム
ナセル
ナチス
NAFrA(北米自由貿易協定)
南極条約
南南問題
南北問題

NIES
二極化(両極化)
ニクソン・ショック
二次元ゲーム(TwoleveIsgame)・ モデル
日独伊三国軍事同盟
日米安全保障条約
日米構造協譲
日韓基本条約
日清・日露戦争
日ソ共同宣言
日中共同声明
日中平和友好条約
ニュー・ディール政策
ニューヨーク
人間環境宣言
認識(心理)過程モデル
ネール
ネオ・マルキシズム
ネオ・リアリズム
ネガティブ・コンセンサス方式
熱帯林の減少
ノーベル平和賞
ハーグ
ハース
排他的経済水域
ハイ・ポリティクス
覇権安定論
覇権国・大国・準周辺国・周辺国
 覇権循環論
バスク地方
パックス・アメリカーナ
発展途上国
パットナムR.
パネル
バルト三国
レフォア宣言
パワー
パワー・ポリティクス(権力政治)
ハンガリー動乱
万国郵便連合(UPU)
パンティントンSノ
PLO
PKO協力法
東ティモール
非関税障壁
非政府間国際機構(NGO)
非ゼロ・サム・ゲーム
非同盟運動
非同盟主義
非同盟諸国会議
非同盟諸国首脳会議

封じ込め政策
フォークランド紛争
複合的相互依存論
フクヤマF.
ブッシュ
部分的核実験停止条約(PTBT)
プラザ合意
プラハの春
フランクA.G.
フランケル
ブリュッセル条約
フルシチョフ
「フルトン」演説
ブレトン・ウッズ協定
プレピッシュ報告
ブロック経済
分担金
文明の衝突
平和維持軍(PKF)
平和五原則
平和十原則
平和のための結集決議
平和のためのパートナーシップ(PFP)
ベーシック・ヒューマン・ニーズ
 ベリンダバ条約
ペルソナ・ノン・グラータ
ベルリンの壁
ベルリン封鎖
ペレストロイカ
変動為替相場制(フロート制)
ホー・チ・ミン
北緯度線
北緯度線
保護主義
保誰貿易
保障措置協定(SA)
ボスニア内戦
ポツダム宣言
ホットライン
マーシャル・プラン(欧州経済復興 計画)
マーストリヒト条約
マクマホン宣言
MAD(相互確証破壊)戦略
マルクスカール
マルクス主義
マルタ
満州事変
ミトラニーD.
民主化
民族自決主義
民族主義
民族紛争
メッシナ会鴻
モーゲンソーH.Jノモスクワ外相会談
モスコー宣言
モデルスキー
モノカルチャー的経済構造
モルグヴィア自治共和国
モントリオール鴻定昏
モンロー主義
ヤルタ会談
ヤング
UNDP(国連開発計画)
ユートピアニズム
ユーロ
UNICEF(国連児童基金)

輸入代替工業化
UNESCO(国連教育科学文化機 関)
ヨーロッパ議会
抑止
ラウンド
ラセット
ラムサール条約(特に水鳥の生息地 として国際的に重要な湿地に関す る条約)
ラロトンガ条約
リアリスト
リアリズム
リージョナリズム
リカードの比較生産費説
理事会(通称:EU閣僚理事会)
理想主義
-[[リベラリズム]]
領域
領海
リンケージ・ポリティクス
累積債務問題
ルーズベルトFノルーブル合意
ルクセンブルクの妥協
ルワンダ内戦
冷戦構造
レーガン
レーニン
歴史の終焉
レジーム論
レバノン内戦
連携協定
連盟総会
連盟理事会
ローズノウ
ロー・ポリティクス
ローマ・クラブ
ローマ条約
ロストウ
ロストウ・モデル
ロメ協定
ワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種のに関する条約)
ワルシャワ条約機構
-湾岸戦争

グッドガバナンス(良い統治)と所得

「良いガヴァナンス」と所得水準

-世界銀行における「ガヴァナンス」概念
–「ある国で権威が行使されるときに依拠する伝統と制度」、つまり国家が権威的な政策を執行するときの権力行使の枠組みのことである。そして、その伝統と制度には、①「政府が選ばれ、監視され、交代させられる過程」(選挙制度)②「健全な政策を効果的に作成し、執行する政府の能力」(政策過程)③「市民と国家との間の経済・社会的相互関係を支配する制度に対する市民と国家それぞれの尊敬の度合い](政治文化)が含まれる。
 このガヴァナンス概念は、政経分離の原則に立つ世界銀行が、アメリカが「人権」外交の強化の一環として、世界銀行に「政治的コンディショナリティ」、つまり民主化条件に基づく途上国支援を強く要請してきたことに抵抗しきれずに、1992年に発表したものである。世銀としては、規定上あくまでも政経分離の原則を堅持しなければならないし、しかしアメリカの圧力をも強く惑じないわけにもいかず、そのジレンマから生み出したものが政府バフォーマンスを評価する指標としての「ガヴァナンス」である。

 「ガヴァナンス」を評価する際に、前述の「選挙制度」「政策過程」「政治文化」の3項目に各2つの測度が設定される。それぞれの測度は、複数の指標のクラスターから構成される。
 選挙制度は「異議申立てと説明責任」と「政治的安定性」の測度、政策過程は「政府部門の有効性」と「規制政策の質」の測度、政治文化は「法の支配」と「腐敗防止」の測度、というように合計6つの測度が設定される。
 「異議申立てと説明責任」は、政治過程、市民的自由、政治的権利を測定する指標から構成されるが、マスメディアの役割の評価も重要な指標として盛り込まれている。「政治的安定性」は、政府がテロを含む反憲法的もしくは暴力的な手段で不安定なものにされるか、あるいは打倒される可能性の指標である。選挙制度全体の指標は、政策の継続性に直接影響を与えるだけではなく、政権を担う人々を平和衷に選出し、そして交代させる市民の能力を損なうような政治変動の可能性を測定するを意図している。
 「政府部門の有効性」とは、公共サービス供給の質、官僚制の質、公務員の能力、政治的圧力からの文官の独立性、政策を一つにまとめることに対する政府関与の信頼性の指標からなる。この測度は、良い政策を作成・執行し、かつ公共財を供給することのできる政府の入力サイドに関連するものである。「規制政策の質」は、市場経済に対する規制の適切さを測る測度である。例えば、価格統制や不適切な銀行指導など市場経済の原則を損なうような介入が行なわれていないかどうか、貿易や経済開発などの分野に過剰な規制を加えていないかどうかが測定される。
 「法の支配」は、政府機関が社会の規則を信頼し、それを遵守する程度、公正かつ予測可能な規則が経済的・社会的相互関係の基礎となるような環境を発展させる社会の成功の度合いを測定する測度である。暴力・非暴力の犯罪発生率、司法の有効性と予測可能性、そして契約の強制力が具体的には測定される。
 「腐敗防止」とは、公権力を私的利益のために活用すると定義される腐敗の程度の測度である。この測度の指標は、データ・ソースによって内容が多岐にわたっているが、一般的に、贈賄する立場にある者(市民・企業)と収賄する立場にある者(公職者)の双方が彼らの相互関係を支配し、ガヴァナンスの失敗の基準を定める規則に対する尊敬の欠如の測定である。

 世界銀行は、これらの測度に基づき175カ国のガヴァナンスを測定して、「1人当たりの所得とガヴァナンスの質」に関して次のような統計的な知見を導き出した。①良いガヴァナンスからより高い1人当たりの所得への強い正の因果的効果が存在する。②1人当たりの所得からガヴァナンスヘの因果的効果に関しては弱い相関、かつ逆相関が観察される。
 このようにして、良いガヴァナンスを達成すれば、高い国民所得をもたらされるということを統計的に導き出した。

 では、ガヴァナンスと所得水準の間にはどのような関係があるのか。「良いガヴァナンスは高い所得水準をもたらす」という知見は、韓国、シンガポール、中国といった国家はその高い規律性、つまり「アジア的価値」ゆえに経済成長をもたらすという主張に対する反証となる。しかし、この知見には、「因果的効果」としている点で疑問が生ずる。「因果的」であるためには、良いガヴァナンスが原因となって高い国民所得という結果をもたらし、その逆ではない、という結論にならなければならない。しかし、良いガヴァナンスと高い国民所得との関係は、あくまでも「相関」が高いというにとどまるのであり、それらは決して因果的な関係があるとまではいえない。

 世界の民主化の推進を目的とし、毎年、各国の自由度を測定している「自由の家」では、政治的権利と市民的自由の2つの測度を用いて各国の自由度を評価している。そして、①政治権力が定期的に行なわれる自由かつ公正な選挙を通して競争する政党間で争われる、②与党は選挙で野党になる可能性がある、という要件を満たしている国家を「選挙民主主義国」と定義する。

 2002年現在、世銀による国民所得別国家の分類によれば、188カ国のうち最も数の多いのは低所得国63カ国、次いで下位中所得国53カ国、高所得国38カ国、そして上位中所得国34カ国の順である。
 ここで、「選挙民主主義」と「良いガヴァナンス」が同じ意味であると仮定した場合、「良いガヴァナンスが高い所得水準をもたらす」というの知見は支持されない。というのも、低所得国63カ国のうち3分の1にあたる27カ国が選挙民主主義国となってしまい、そのなかには「自由国」と評価された国が7ヵ国もあり、とうてい良いガヴァナンスが高い所得をもたらすとはいえない。さらに、その7カ国のうち6カ国が債務に苦しんでいる。低所得国で選挙民主主義と判定された27カ国中の19カ国が債務に苦しみ、約半数の14カ国が重債務国となっている。同じく非選挙民主主義と判定された36カ国のうちで30カ国が債務に苦しみ、20カ国が重債務国である。非選挙民主主義国のほうがガヴァナンス度が低いが、だからといって選挙民主主義国のほうがそれは高い、とはいいきれない。下位中所得国の場合には、選挙民主主義国も非選挙民主主義国も債務の状況にはほとんど差がないのである。
 このように、低所得国でも自由民主主義の体制は可能である、といえるにすぎない。民主主義であることは、良いガヴァナンスを保証していないのである。

 世界銀行のガヴァナンス評価を所得水準と選挙民主主義ごとにみて、それぞれの所得水準ごとに比較すると、どの測度に関しても高い所得の国ほどガヴァナンス評価が顕著に高い。 しかし、各所得水準ごとに選挙民主主義国と非選挙民主主義国の評価の平均をみると、高所得国ならびに上位中所得国では、いずれも選挙民主主義国のガヴァナンス評価が非選挙民主主義国のそれよりも高くなっている。他方、下位中所得国ならびに低所得国では、両体制間の評価の差はほとんどない。所得水準が「政府部門の有効性」の結果であると仮定したとしても、同一所得水準内でも、非選挙民主主義国の評価は、選挙民主主義国のそれよりも劣る。
 つまり、ガヴァナンス評価は、各国の所得水準の結果である可能性が高く、①高所得国と上位中所得国のような経済的に豊かな国の場合、選挙民主主義体制を機能させる条件が整っている、②下位中所得国ならびに低所得国は、選挙民主主義体制を機能させる条件に恵まれていない、という結論が導き出される。
 所得水準が選挙民主主義体制を機能させる条件となるかどうかを観察するために、選挙民主主義国を所得水準別に比較した場合、上位中所得国は、高所得国の選挙民主主義国と非選挙民主主義国との間の差よりも、高所得国の選挙民主主義国の評価に対して小さい差を示している。しかし、下位中所得国と低所得国のそれは、経済的豊かさが民主主義体制の機能にとって必須の条件となっていることを示す。とりわけ、海外の投資家が投資対象国の投資条件の―つとして重要視するカントリーリスクを示す指標となる「政治的安定性」である。政治的安定性は、所得水準が高いほど高く、低いほど低くなる。一般的に、経済的貧困は最も有力な政治の不安製化要因となるのである。

 「東アジアの奇跡」の代表例として言及されるシンガポールとマレーシアの両国は、政治的批判に対してある程度は寛容ではあるものの、実態は権威主義的体制であり続けるとみなされている。シンガポールは、「異議申立てと説明責任」と「規制政策の質」で高所得国の平均を下回るものの、他の指標では平均や日本のそれを上回っており、「政府部門の有効性」と「腐敗防止」では、高所得国のなかでもトップクラスの高い評価を得ている。一方、マレーシアでは、「法の支配」を除く他の指標では、同一の所得水準の平均を下回る低い評価を得ており、マレーシアの評価は著しく低い。
 良いガヴァナンスと民主主義は一致しない可能性があり、ある種の「良い」ガヴァナンスは、豊かな経済生活を達成する可能性があること、同じ「アジア的価値」の社会でも、民主主義的体制であるかどうかは別として、「良い」ガヴァナンスでない国は所得水準が低いこと、そして「良い」ガヴァナンスと高い所得水準との間の相関は確認されるものの、その相関は因果関係としてではない「関係」でしかないということがいえる。

イデオロギーの終焉

ベル

「イデオロギーの終焉」論は1950年代のなかば頃から,D.ベルの『イデオロギーの終焉』The End of Ideology(1960),R.アロンの『知識人たちの阿片』L’Opium des intellectuels(55)などによってアメリカやヨーロッパの一部の知識人が主張したもので,科学技術の進歩が生活水準を向上させ,資本主義と共産主義との体制間に基本的な差がなくなったためにイデオロギーが果す現実的役割が消滅したという見方。

ベーシック・インカム

トニー・フィッツパトリック『自由と保障 ― ベーシック・インカム論争』

第1章 基本に進め

■ベーシック・インカム(BI)
‐すべての男性・女性・子供に対し、市民権に基づく個人の権利として、職業上の地位、職歴、求職の意思、婚姻上の地位とは無関係に、無条件で支払われる所得のこと。

○賛成論
・ 現在の社会保障システムよりも効率よく最低所得を保障できる。
・ ベーシック・インカムはすべての者の地位が平等。貧困や失業をかなり軽減できる。
・ 個人の自律性の向上。
・ 少ない費用での運営が可能。
×反対論
・ 無条件で給付されるため、受給者に対し何も要求できない。←義務の側面を無視
・ 運営には多額の費用がかかる。給付水準が低いと低所得層にとっては苦しい。

・ ベーシック・インカムはあらゆるイデオロギー的立場から支持と批判の両方が寄せられる。
・ ベーシック・インカムが、どのような特性、意義、効果を持つかは、BIの実現されるイデオロギー的社会環境がどのような性質をもっているかによって異なる。
・ 右派と左派のBIは基本的には別物。論争のイデオロギー的な側面を議論の中心におくことに、本書の独自性がある。

■本書の目的
1. 「最小限モデル」の理解。イデオロギー的な次元とは無関係にBIを理解する。
2. イデオロギー的な見取り図の製作。
3. 政治理論と社会政策といった学問分野とBIの関係を示す。

2. イデオロギー

―イデオロギーは時代遅れ?
1. 「イズム」の時代の終焉。
2. イデオロギーは、とりわけ社会的世界を歪んだ形表象する大きな物語であり、無用の長物である。

・ イデオロギーは「外側の」世界を映し出すだけでなく、その世界に対する働きかけや介入を動機づける。人間の集合的行為を通して、数世紀にわたってイデオロギー上の相違から形成された世界と向き合わなければならない。
・ 「私たちは今、一体何をしているのか?」という問いに対して、ポスト・モダニストとポスト構造主義者は(何をすればいいのか、ということに関する)処方箋がない。混乱した不安定な世界のなかで進むべき方向を見つけようとするとき、イデオロギーは貴重な判断基準を提供する。

3. 比較のなかのベーシック・インカム
・BIを比較アプローチによって扱うだけでは不十分。
① BI論争における、フェミニズムや環境保護運動の貢献を無視するおそれ。
② 現在、BI制度は存在しない。
③ BI論争が福祉レジームのレベルで行われることがなく、また、普通は、政府レベルでの論争さえない。

■BI論争が政府レベルの広がりを見せる国

① アイルランド
② オランダ
③ ブラジル
④ カナダ

4. 市民権についての一言

・BIに関するイデオロギー論争は、実際は市民権に関する論争。
・市民権という概念…「受動的な要素」と「能動的な要素」。
・市民権→法的な居住資格

5. 結論と本書の構成

筆者のスタンス:ベーシック・インカムを支持。
・ ただし、急進右派の「負の所得税」(NIT)は支持しない。ほぼ全員に対してミーンズテストを行うため。

ダールのポリアーキー論

ダールのポリアーキー論

第二次大戦後のアメリカ政治学の第一人者となったダールは.デモクラシーの理念ではなくその現実を客観的に分析しようというシュンペーターの方法的自覚を受け継ぎながら,エリートと大衆とを対立させるシュンペーターの二元論を克服しようとした。その際にダールが注目したのは,「集団」であった。集団こそ,孤立した無力な個人と,政治に対して全面的に責任を負うと期待される指導者層の間を媒介する存在なのである。

ダールはまず,デモクラシーの伝統は,政治的平等と人民主権を奉ずる人民主義的民主主義に尽きるものではなく,第4代アメリカ大統領マディソンに発するもう一つの民主主義のモデルがあると主張した。
マディソン的民主主義は,徒党(faction)をうまく利用することに成功した体制である。マディソンによれば,一つの徒党が強大な権力をもつ事態は民主政にとって致命的な結果をもたらすが,複数の徒党同士が相互に牽制しあいつつ競合することは,民主政にとってよい結果をもたらす。
このマディソン的民主主義の伝統は,現代のアメリカにおいては,企業・労働組合・政党・宗教団体・女性団体といったさまざまな利益集団相互の競合と調整というかたちで,着実に受け継がれている。ダールは,著書『統治するのはだれか』(1961)において,1950年代のアメリカ社会のケーススタディを通し,そこではエリート論者が主張するような,一枚岩的なエリート層による政治権力の独占は実際には存在せず,権力はさまざまな利益を代表する複数の社会集団の間で共有されていると結論づける。また,個人が複数の団体に重複加盟することも少なくない。こうした集団間の交渉や連携によって一種の競争的均衡が生じ,市民は集団を通して十分に指導者をコントロールすることができる。その意味で民主政は,少数エリートの統治ではなく,複数の少数集団の統治であるというのである。

ダールはこういったアメリカの現実の民主政を,理想としての完全な民主政とは区別するために,特にポリアーキーと名づけた。ポリアーキーにおいては,ばらばらの個人ではなく,利益をともにする者の間で組織された複数の集団が相互に交渉しつつ,議会における最終的な決定にいたるまでのさまざまな過程に影響力を行使する。選挙や議会における決定という制度的局面の背後でこのような活動が展開していることこそ,アメリカを相対的にはより民主的な政体とする重要な鍵なのである。

このように,利益集団や圧力団体のような自立的集団の活動に注目する議論は,多元主義もしくは多元的民主主義論と呼ばれる。近代社会がさまざまな利害に分裂した多元的社会であるとすれば,利益集団間の妥協によって合意を導くというのは,そのような社会によく適合する民主政の一形態であることは否めない。もちろん,それがうまく機能するのは,個人の利害がいずれかの利害集団に確実に代表されていること,また利害対立が経済的なそれのように,何らかのかたちで妥協可能な比較的穏やかなものであることが,暗黙のうちに前提できる社会においてのみであろう。とはいえ,ダールのモデルは,リベラルな社会における民主政の安定という観点から見れば,きわめて説得力のあるものと受け取られたのである。